26.02.26 update

大ヒット曲「22才の別れ」で知られるフォーク・デュオが3枚目のシングルとしてリリースした、人を愛することで傷つき傷つける、それでも愛することのすばらしさを詠った青春讃歌  風「ささやかなこの人生」


 1975年2月5日にリリースされた「22才の別れ」はオリコン・シングル・チャート1位を4週連続記録し、年間チャートでも7位にランクインし、約71万の売上の大ヒットとなった。累計売上はミリオンセラーに達する。耳なじみのいいギターのアルペジオで始まる印象的なイントロは、当時、ギターを手にした誰もが挑戦していた。そして、仲間が集まる飲み会や、カラオケなどでは同世代の若者たちの定番の楽曲だった。

 歌ったのは<風>という、<かぐや姫>にいた伊勢正三と、<猫>の大久保一久が75年に結成したフォーク・デュオで、<風>のデビュー曲である。<猫>は、吉田拓郎作詞・作曲の「雪」や「地下鉄にのって」(作詞は岡本おさみ)などで知られるフォーク・グループ。作詞・作曲は伊勢正三で、伊勢にとっては初めてプロとして作曲を担当した曲だった。印象的な編曲は、アリス「チャンピオン」、さとう宗幸「青葉城恋唄」、森山良子「さとうきび畑」などの編曲も手がけた石川鷹彦による。

 そもそもはかぐや姫が74年にリリースしたアルバム『三階建の詩』のために伊勢が書いた2曲のうちの1曲(もう1曲は「なごり雪」)だったがかぐや姫のシングルとしては発売されなかった。その後84年にかぐや姫バージョンもリリースされる。編曲は中島みゆき「地上の星」、中森明菜「サザン・ウインド」、長渕剛「順子」などの編曲も手がけている瀬尾一三だった。今から50年以上も前にリリースされた曲で、当時20代だった若者たちも、すでに70代だと考えると時の流れの速さを感じさせられるが、50年前のこの曲は、今、自身の想い出の記憶と共に70代で聴いても新鮮に響くだろう。


 <風>の活動期間は、75年から79年までで、その間にシングル6枚、オリジナル・アルバム5枚をリリースしている。最初のオリジナル・アルバム『風ファーストアルバム』がリリースされたのは75年6月5日で、オリコン・チャートで1位を記録した。76年1月25日リリースの2枚目のアルバム『時は流れて…』も1位、76年11月25日リリースの3枚目『WINDLESS BLUE』は3位、77年10月25日リリースの4枚目『海風』は1位、そして最後のアルバムとなる78年10月5日にリリースされた『MOONY NIGHT』は2位と、いずれもセールス的にも大成功を収めている。そして、79年4月25日にリリースしたセルフカバーベスト『Old Calendar~古暦~』の発売後に、それぞれのソロ活動に向けて突然活動を中止した。このアルバムは全曲新録音によるもので、活動期間中にリリースされた唯一のベスト盤としても音楽ファンの記憶に刻まれている。


 「22才の別れ」に続き、アルバム『時は流れて…』からの先行で2枚目シングルとして75年12月10日にリリースされた「あの唄はもう唄わないのですか」は、ビッグ・ヒットには結びつかなかったが、恋愛真っ只中の20代の若者たちや、好きな人との別れを体験した30代、40代の人たちの心にも響く歌だった。別れて一年経ち、新聞の片隅に見つけた〝あなたの〟リサイタルの記事。彼女は実は去年もひとりで誰にも知られずに一番後ろで観ていた。私のために作ってくれたと今も信じている〝あの唄〟をもう一度聴きたくて。私にとっては想い出なのに、あの唄はもう唄わないのですか、と心の中で問いかけてみる。フォークソングブームのさなかに描かれる、フォークシンガーと思われるその恋人との愛と別れを想像させられる。リサイタルの記事が載るのは新聞の片隅だから、ミュージシャンとしてそれほど成功しているとは思えない彼。あなたがあの唄を唄わないのは、何か心に痛みを抱えているからなのか。シチュエーションは違うが、どこかかぐや姫の「神田川」にも通じる、時代の恋人たちの切なさがしみる曲だ。作詞・作曲は伊勢正三、編曲は石川鷹彦が手がけている。


 そして、今回紹介する「ささやかなこの人生」は、76年6月25日にリリースされた3枚目のシングルで、作詞・作曲を伊勢正三が、編曲は瀬尾一三が担当している。チャートのベストテンには届かなかったが、ぼくのなかでは<風>といえばこの曲であり、「22才の別れ」「あの唄はもう唄わないのですか」「ささやかなこの人生」と聴いていると、勝手に「風三部作」のような味わいを感じている。ぼく同様に、この曲を<風>の代表曲ととらえている人も少なくない。

1 2

新着記事

  • 2026.02.26
    徳川美術館の特別展【豊臣兄弟!】4月開催!大河ドラ...

    4月18日(土)~6月14日(日)

  • 2026.02.26
    【倍賞千恵子】芸能生活65周年記念で、夫・小六禮次...

    芸能生活65年のコンサート

  • 2026.02.26
    【お出かけ情報】春が来た。菜の花、あちらこちら特集...

    菜の花情報

  • 2026.02.26
    大ヒット曲「22才の別れ」で知られるフォーク・デュ...

    風「ささやかなこの人生」

  • 2026.02.25
    【試写室からの報告】眼を背けてはいけない20世紀最...

    2月27日(金)全国公開

  • 2026.02.20
    【一般試写会・ご招待】人生の終盤をテーマに笑いと涙...

    応募〆切:3月4日(水)

  • 2026.02.20
    「子育て応援ポリシー」を掲げる小田急グループが、鉄...

    江ノ電バス、子児料金一律50円

  • 2026.02.19
    <学園祭の女王>から<シティ・ポップの女王>になっ...

    杏里「オリビアを聴きながら」

  • 2026.02.18
    夜の都庁をキャンバスにした光と音に圧倒される!東京...

    都庁の夜の演出

  • 2026.02.18
    大反響の『ポール・マッカートニー:マン・オン・ザ・...

    2月22日(日)アンコール上映

映画は死なず

特集 special feature  »

<特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

特集 <特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松宗雄が語る誕生秘話〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

特集 松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松...

〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial