本作のレビューはネタバレしてしまっては意味がない。原作本をお読みならともかく仇討ちの裏に隠された真実を明かしてしまっては、興を殺ぐのは必定。
とはいえ、昨今観られなかった笑いあり涙ありの最高の時代劇エンタテインメントとお伝えしましょう。ちょっと骨っぽい時代劇ドラマを予感させる冒頭、江戸の仇討ち斯くありなんという緊迫した場面から始まり、中盤には人情噺的な涙を誘い、そしてハラハラのスリル感たっぷりで展開するトリック場面もコメディさながらの達者な俳優たちの芝居が笑わせる。久しぶりに堂々と疑いもなくお勧めの映画。
永井紗耶子による小説『木挽町のあだ討ち』は第169回直木賞や第36回山本周五郎賞を受賞した原作の「鬼笑巷談帖」より、「木挽町の仇討」とは?
『雪の降る中、赤い振袖を被き、傘を差した一人の若衆。そこに大柄な博徒が歩み寄り、女と見違え声を掛けた。すると若衆、被いた振袖を投げつけて白装束となる。「我こそは伊納清左衛門が一子、菊之助。その方、作兵衛こそ我が父の仇。いざ尋常に勝負」—朗々と名乗りを上げて大刀を構えた。対する博徒作兵衛も長脇差を抜き放つ。~~堂々たる真剣勝負の決闘。遂に菊之助が作兵衛に一太刀を浴びせた。~~作兵衛の首級を上げた菊之助、~~宵闇に姿を消した。』
すべては木挽町の芝居小屋「森田座」の裏手の仇討ち事件から、この話は始まった。
事件後およそ2年を経て、仇討ちの真相を探ろうと江戸入りする遠山藩元藩士、加瀬総一郎(柄本佑)は「森田座」に乗り込み、僅か17歳の妹の許嫁、伊納菊之助が起こした仇討ち事件が腑に落ちないと、芝居小屋の連中から真相を探ろうとする。加瀬総一郎の謎解き探偵ぶりを順を追って書けばすぐネタバレ。あらすじレビューはここまでにしておこう。スクリーンでお楽しみ願いたい。
あえて見どころを披露すれば、ミステリー仕立てに相俟って人情味が加わった、単なる時代劇ではなく、最後に鮮やかな「どんでん返し」が用意された大団円のエンタテインメント。そこに登場人物たちの温かい人間ドラマが組み合わさって、仇討、復讐という重いテーマを扱いながらも、観終わった後の清々しい心待ちにして、「粋で爽快」「心温まる」上質な時代劇だったと言い添えておきたい。
試写室で、午睡誘われる時間帯にもかかわらず、まんじりともせず感動の涙を流し、笑い、留飲下げる結末に、まず原作者の永井紗耶子さんに敬意を表したい。そして、原作では顔かたちを見せないが、仇討ちの真相を探ろうと江戸入りする柄本佑(加瀬総一郎役)、森田座を仕切る立作者(篠田金治役)の渡辺謙、何よりならず者の博徒(作兵衛役)の北村一輝、父の仇討ちを成し遂げる(伊納菊之助役)長尾謙杜、森田座の立師・滝藤賢一、木戸芸者・瀬戸康史、衣裳方・高橋和也、小道具方・正名僕蔵、その妻・イモトアヤコ、そして伊納菊之助の父・山口馬木也、母・沢口靖子etc.この上ない芝居上手たちのキャスティングに惜しみない拍手を送りたい。
木挽町のあだ討ち
2026年2月27日(金)全国公開
原作:永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮文庫刊)
監督・脚本:源孝志
主題歌:「人生は夢だらけ」 椎名林檎(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC)
Ⓒ2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 Ⓒ2023永井紗耶子/新潮社
配給:東映
https://kobikicho-movie.jp/