23.08.04 update 昭和

デビュー50周年超えの五輪真弓の「恋人よ」を聴きながら、ニューミュージックというジャンルは今でも生きていることを実感する

 思えば五輪真弓も団塊世代のしっぽにくくられるだろう。その彼女が最初にレコーディングした「少女」は、1971年にアメリカのロサンゼルスのスタジオだったというから驚かされる。CBS・ソニーでは日本のフォーク界の吉田拓郎がいたが、五輪真弓は拓郎に並ぶ最重要アーチストだという触れ込みだった。アメリカの有名シンガーのキャロル・キングはデモテープを聴いてすっかり魅了されレコーディングに参加したという。シングルと同時発売されたアルバムはオリコンで最高6位にランクされた。五輪真弓のデビューは「和製キャロル・キング」との惹句が付けられた。確かに日本の女性シンガーソングライターの草分けと言っていいのだろう。

 後になって知った「恋人よ」の誕生のエピソードが忘れられない。五輪のデビュー当時のディレクターが事故死し、葬儀に参列して悲嘆にくれる夫人の姿を見た衝動が書かせた楽曲だったのだ。この別れ話、冗談だよと、笑って…と綴ったのは、突然死した夫を思う妻にとって二度と戻ることがない辛い別離を語っていたのである。五輪が葬儀の帰途に思いつき書かせた楽曲だったと聞いて、その感性に、改めて震えたものだった。

 実は筆者もまったく同じような光景が忘れられない。1980年頃、勤めていた出版社で雑誌編集から書籍出版の編集部に異動したばかりのボクは仕事に戸惑っていたが、ベストセラーを狙える書籍の作り方、売り方、作家との付き合い方まで丁寧に指導してくれた上司がいた。数々のベストセラー本を世に送ってきた出版社から転籍した人だった。若い編集者らをカラオケのあるスナックで飲ませてくれたが、不治の病を知っていたのか、彼は何度か「恋人よ」を歌いながら涙を流すようになっていた。出版部門の指導者となったのも束の間で、40歳になる直前に癌に斃れたのだった。まだ幼い女の子がいた。療養中に編集部員を何度も自宅に呼び寄せて会議をしたことで夫人にもお世話になったが、幼子を抱きかかえて弔問客を迎える夫人の慟哭する姿が忘れられない。彼にとって、「恋人よ」は辞世の歌だったのか! これもしばらく後になって合点したことだった。

 ボクは五輪真弓をあまりにも遅く知ったと白状するが、それだけに彼女の代表曲となった「恋人よ」の衝撃は大きかった。日本レコード大賞の金賞を受賞したのも、「NHK紅白歌合戦」に初出場したのも「恋人よ」の大ヒットを受けてのことだった。

 冒頭に書いたように彼女は芸能界を泳ぐ流行歌手ではないと断言したい。しかし、同時代を生きた五輪真弓がボクらと同じように昭和歌謡を聴いて育ち、後々まで歌われる「恋人よ」をつくってくれたことを誇りに思うのである。

文:村澤 次郎 イラスト:山﨑 杉夫

1 2

新着記事

  • 2026.03.16
    篠井英介に職業俳優の女方として生きていく覚悟を決め...

    東京・大阪公演

  • 2026.03.16
    ちょっと贅沢な箱根温泉の〝日帰り旅〟の一日は《箱根...

    応募〆切:5月10日(日)

  • 2026.03.16
    中村雅俊、秋野太作、田中健、岡田奈々「俺たちの旅」...

    追加公演決定!

  • 2026.03.13
    東京芸術劇場初代芸術監督 野田秀樹の公演活動を振り...

    3月24日(火)~31日(火)

  • 2026.03.13
    箱根〈彫刻の森美術館〉の新コレクション、草間彌生の...

    4月19日~11月1日

  • 2026.03.13
    【お出かけ情報】参加費無し、いつでも参加できる、縛...

    京成グループ沿線ウォーキング

  • 2026.03.12
    【お出かけ情報】心ときめく春のご褒美、ホテルのアフ...

    贅沢なお出かけ!

  • 2026.03.12
    美人薄命─昭和の歌姫・本田美奈子はデビュー曲の「殺...

    本田美奈子「殺意のバカンス」

  • 2026.03.11
    「京成ドリームトレイン」子どもたちの夢を乗せて快走...

    子どもたちの夢の詰まった電車

  • 2026.03.11
    熊本地震から10年、「熊本城―守り継がれた名城40...

    応募〆切:4月5日(日)

映画は死なず

特集 special feature  »

今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松宗雄が語る誕生秘話〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松...

〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎ポートレートの美学

秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial