23.12.28 update 昭和

『ブギウギ』の笠置シヅ子が「紅白歌合戦」のトリを飾った1956年、三橋美智也は「哀愁列車」で初出場し昭和歌謡界を牽引した

シリーズ /わが昭和歌謡はドーナツ盤

 本稿がアップされる3日後の大晦日、第74回NHK紅白歌合戦が放送される。しかし、長年の紅白ファンにとっては、英語表記のグループや楽曲ばかりが目について、ここ数年は全出演者、全曲をしっかりと見届けた記憶がない(テレビを前に居眠り時間が増加の一途)。一年の区切りのお祭りに水を差すつもりなどないが、わが昭和歌謡「紅白」ベストワンの思い出をお届けして2023年(令和5)の本シリーズ連載の掉尾としたい。

 もう三橋美智也を懐かしむ人は、歌謡曲ファンといえどもわずかしかいないだろう。しかし昭和歌謡界の〝モンスター(レジェンド)〟であることは間違いない。

 ちなみに曲別のレコード売上枚数の記録から。まず、歌謡曲。①「古城」300万枚、②「リンゴ村から」「星屑の町」270万枚、④「哀愁列車」250万枚、⑤「夕焼けとんび」「達者でナ」220万枚、⑦「おんな船頭唄」「母恋吹雪」200万枚、⑨「あの娘が泣いてる波止場」180万枚、⑩「お花ちゃん」「一本刀土俵入り」「赤い夕陽の故郷」「武田節」「石狩川悲歌」150万枚、⑮「男涙の子守唄」120万枚、⑯「あゝ新撰組」「おさげと花と地蔵さんと」110万枚、⑱「おさらば東京」100万枚、以上18曲がミリオンセラーである。他に筆者の知る「ご機嫌さんよ達者かね」などもラインナップされていなくても、誰でも知り口ずさんでいた楽曲である。

 続いて、三橋によってスタンダードになった民謡も数知れない。①「相馬盆唄」「炭鉱節」280万枚、③「花笠音頭」270万枚、④「黒田節」「北海盆唄」260万枚、⑥「ソーラン節」「斉太郎節」「佐渡おけさ」250万枚、⑨「津軽じょんから節」180万枚、⑩「木曽節」「江差追分」170万枚、⑫「相川音頭」130万枚。これが歌謡曲、民謡合わせて上位30曲である。

 日本の歌謡界で、ミリオンセラーをこれだけ記録した歌手は他にいない。1954年(昭和29)のキングレコード「酒の苦さよ」がデビュー曲とすれば、29年後の1983年(昭和58)にはレコードのプレス枚数が1億枚を突破し、生涯の売上枚数1億600万枚(オリコン発足前の記録)というのだから恐れ入る。日本の隅隅まで三橋美智也の歌声が届いていた時代があったのだ。「三橋で明けて三橋で暮れる」とはよく言ったもので、ボクの小学生時代の昭和30年代は、あの高音の透き通った声と、独特の節回しが毎日どこからか聴こえていた。同い歳のフォークソングの南こうせつさんは、実家であるお寺の檀家衆の集まりで、三橋美智也を声高らかに歌うと大絶賛され投げ銭ならぬ小遣いをいただけたという。「小学生の分際で500円にもなって、歌を歌えばお金になるという勘違いからボクの歌手人生は始まった」と笑って語っていたことがある。

 という次第で、1956年(昭和31)第7回「NHK紅白歌合戦」に初出場した三橋の楽曲は、「哀愁列車」(作詞:横井弘、作曲:鎌多俊与)であった。紅組の対抗は4回目出場の江利チエミが大きな目をクリクリさせながら「お転婆キキ」を歌唱。白黒テレビを食い入るように見ていた小学1年生のボクはとっくに「哀愁列車」の歌詞を諳んじていたが、「ほ~れ~て~、ほれて~」といきなり最高音の出だしの詞から終わりまで、一体何の意味かも分からずに声を張り上げていたのだった。明治生まれの親父は、残念ながらお小遣いならぬお年玉は奮発してくれなかったが、わずか7歳で三橋を歌うボクを嬉しそうにして目を細めていた。

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