26.01.22 update 昭和

「とんでとんで」「まわってまわって」と日本中に広まった「夢想花」を聴きながら、円広志の浮き沈み激しい人生に励まされる

 
 晩酌の酔いが回ろうとしていた。テレビではBS放送の歌謡番組。森昌子の「越冬つばめ」を演歌の中堅歌手、羽山みずきがカバーしている。おっ!羽山みずき、きれいだな、と見惚れてしまう。歌唱力も確かだ。「ヒュルリー、ヒュルリララ」と来ると、懐かしさで目が潤む。確かに名曲だ。画面には作詞:石原信一、作曲:篠原義彦とある。年上の男に縋り付くような詞は演歌調だが、若い女性の哀しみを歌う楽曲にしては馴染みやすい。「せんせい」でデビューした森昌子が、この歌でおとなの女になった、といわれている。

 昭和58年リリースされたこの楽曲がヒットしていた頃、勤めていた会社の社長がよく聴いていた。同乗した社長専用車の中で、「おい、ヒュルリーかけてくれ」とドライバーに告げることたびたびだった。カセットテープがセットされるとやがてアコースティックギターが爪弾かれ、~ジャジャジャーン~とオーケストラの前奏が始まる。凍てつく冬の鉛色の海に自在に飛ぶつばめのイメージが浮かぶ。東北出身の社長は、目を瞑ってジッと耳を傾けて何を想っていたのか。冗談にも、「越冬つばめのように南の空へ飛んでいきたいのですか?」などと訊けるはずもなかったが、ワンマン社長のロマンチックな一面を知って、嬉しいような気まずいような、会話はできなかった。

 重なるのは映画『釣りバカ日誌』シリーズのスーさんこと建設会社のオーナー社長、三國連太郎、釣りバカを自認するハマちゃん・西田敏行との掛け合いだ。お抱え運転手の笹野高史や秘書の中村梅雀も加わって専用車の中ではオーナー社長といえども権威も鎧も通じず裸になってしまう。社長専用車ではないが、実際にシリーズ3の『釣りバカ日誌』(1990)では五月みどりとハマちゃんの西田がカラオケで「越冬つばめ」を合唱するシーンや宴会の席で口ずさむなど印象的に使われている。釣りバカと、海と、つばめは情感が似合っている。

 前置きが長くなったついでに、楽屋話をご無礼承知でつづける。作曲家、篠原義彦のことを知らずに編集会議に臨んだ失敗談だ。

 自分:前に「越冬つばめ」は取り上げた? いい歌でね、聴いていると涙がでるよ。メロディがいいよね、でも作曲は誰だっけ?

 本欄「わが昭和歌謡はドーナツ盤」の同じライター・黒澤百々子さん:私書きましたよ!作曲家の篠原義彦とは、とんで、とんで~の円広志。「越冬つばめ」でしっかり記述していますよ!(暗に「読んでくれていないのね」と怒りの口吻)

 自分:あっ!そうだった。それを思い出して「夢想花」を書こうと。(とっさの逃げの言い訳)。あの「とんで、とんで」の円広志と「越冬つばめ」が結びつかなかったからねぇ。

 編集長:了解! という次第。



 で、篠原義彦こと円広志は、小学生2年の時に観た『禁じられた遊び』のギターのメロディがきっかけでギター演奏に熱中し音楽大好き少年になったという。長じてアマチュアのロックバンド「ZOOM」を結成。1975年ヤマハの関西地区のアマチュア音楽祭「大阪8・8ロックデイ」で入賞し、プロの道を目指す。しかし、1978年、それまで大学時代に組んでいたロックバンドを解散。大学卒業後、ソロ活動とは聞こえはいいが辛うじてライブハウス以外お呼びはかからない。すでに高校の同級生と結婚していて勤めに出る嫁の弁当づくりをする日々。悶々と一人、ギターを弾きながら作曲に励むもののヒモのような生活に突如疑問がわき、自棄(ヤケ)になってギターを叩くように弾いた。

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