20.12.27 update 昭和

バスの車掌も、女性の職業として注目されていた

関東大震災のあと運行が増えた東京のバス

 昭和三十二年にはコロンビア・ローズが 〽発車オーライ……と歌う「東京のバスガール」が大ヒットした。もっともこの歌は『バス車掌の時代』によると実際の車掌たちには、厳しい労働の現実を知らなすぎると評判が悪かったらしい。

 厳しい現実といえば、バスの車掌にとっていちばん不快だったのは身体検査だったという。車掌が現金を扱うために行われたものだが、人権に関わる。

『歌え! 青春はりきり娘』には、営業所で中年の係官が若い女性たちを並べてポケットを検査してゆく場面があり、その厳しさに驚かされる。

 東京で本格的なバスの運行が始まったのは大正八年(1919)という。前年に発足した東京市街自動車という民間の会社がアメリカからバスを購入し、大正八年に新橋―上野間でバス運行を始めた。この時に、女性の車掌を採用した。当時としては花形の職業だった。

 昭和五年に出版されベストセラーになった林芙美子の自伝的小説『放浪記』には、尾道から東京に出て来て、いまのフリーターのようにさまざまな仕事を転々としている「私」に宿屋のおかみさんがこういう。

「あんた、青バスの車掌さんにならないかね、いいのになると七十円位入るそうだが……」

「青バス」というのは東京市街自動車が走らせていたバスのこと。車体を青(正確には緑)に塗ったので一般に「青バス」と呼ばれ、親しまれていた。この話は大正十二年ころのこと。七十円といえば公務員の初任給と変わらないから女性の職業としてはいいほうだったろう。「私」は青バスの車掌になりたいと思うのだが、狭き門だったらしく、残念ながらなれない。

 バスの運行が増えるのは、大正十二年の関東大震災のあと。いうまでもなくそれまでの公共交通機関だった路面電車が震災によって大打撃を受けたために、それにかわるものとしてバスが求められた。民間の「青バス」だけではなく東京市の市バスも走るようになった。

昭和39年当時の岡山県下津井電鉄のバスと乗務する車掌さん。襟の白いまぶしい紺の制服に帽子。歌にも歌われた車掌さんのスタイルだ。(下津井電鉄歴史資料館)

1 2 3

新着記事

  • 2026.03.16
    篠井英介に職業俳優の女方として生きていく覚悟を決め...

    東京・大阪公演

  • 2026.03.16
    ちょっと贅沢な箱根温泉の〝日帰り旅〟の一日は《箱根...

    応募〆切:5月10日(日)

  • 2026.03.16
    中村雅俊、秋野太作、田中健、岡田奈々「俺たちの旅」...

    追加公演決定!

  • 2026.03.13
    東京芸術劇場初代芸術監督 野田秀樹の公演活動を振り...

    3月24日(火)~31日(火)

  • 2026.03.13
    箱根〈彫刻の森美術館〉の新コレクション、草間彌生の...

    4月19日~11月1日

  • 2026.03.13
    【お出かけ情報】参加費無し、いつでも参加できる、縛...

    京成グループ沿線ウォーキング

  • 2026.03.12
    【お出かけ情報】心ときめく春のご褒美、ホテルのアフ...

    贅沢なお出かけ!

  • 2026.03.12
    美人薄命─昭和の歌姫・本田美奈子はデビュー曲の「殺...

    本田美奈子「殺意のバカンス」

  • 2026.03.11
    「京成ドリームトレイン」子どもたちの夢を乗せて快走...

    子どもたちの夢の詰まった電車

  • 2026.03.11
    熊本地震から10年、「熊本城―守り継がれた名城40...

    応募〆切:4月5日(日)

映画は死なず

特集 special feature  »

今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松宗雄が語る誕生秘話〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松...

〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎ポートレートの美学

秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial