23.02.09 update 街へ出よう

フラリと出かけたい、街中の小さな美術館

お気に入りの美術館で好きな画家と対峙する時間

 挿絵の魅力は、芸術絵画では否定的に使われる評価「説明的」が重要であるところだ。人物の描き分け、衣裳、舞台設定、小道具、アクション、情緒、感情表現など、本文の場面を想像力でドラマチックに描き尽くして美的世界をつくる。美男美女は画家により個性があり人気を分ける。最近の小説家はリアルに挿絵を描かれるのを嫌う傾向があるらしくイメージ的でものたりない。戦前は時代物の考証も風俗の描写も徹底的に具体的で、そこに大いなる価値がある。
 弥生美術館では「生誕130年記念─明治・大正の挿絵界を生きる─鰭崎英朋(ひれさきえいほう)展」を見た。鰭崎英朋は鏑木清方(かぶらききよかた)、小村雪岱(こむらせったい)と並ぶ泉鏡花の挿絵画家。最近、清方はサントリー美術館、雪岱は川越美術館で人きな展覧会があったが、英朋は弥生美術館が初めてだ。清雅な清方、洒脱な雪岱に較べ、血の通った情念を感じる英朋の画業をつぶさに見た。


 今日は「谷根千界隈の文学と挿絵展」だ。谷中・根津・千駄木は鏡花・一葉・漱石・鴎外・露伴から、雨情・乱歩にいたるまで文学者のゆかり 多く、あまたの挿絵画家が住んだという。露伴『五重塔』の挿絵は伊藤彦造で、猛風に立つのっそり十兵衛の気迫がすばらしい。当時の雑誌や書籍もそのまま展示され時間を忘れた。
 弥生美術館を作った鹿野啄見(かのたくみ)氏は宮城県の農家の一人息子に生まれ、刻苦勉励のすえ小学校代用教員から東北帝大に学び弁護士となった。幼き日に魅了された高畠華宵(たかばたけかしょう)の絵「さらば故郷 !」の、志を立て郷関を出る少年にわが身を重ねていたが、昭和40年、華宵が兵庫の老人ホームに逼塞しているのを知り、東京に招いて逗留させ、ファンと「華宵会」を作り、上野松坂屋で「高畠華宵展」を開き再評価にむすびつけた。41年、華宵は東大病院で鹿野氏に看取られ逝去。作品群を預けられた氏は作品集刊行に全力を注ぎ、ついに自宅を、華宵作品を常設して挿絵文化を展示研究する美術館に建て替えた。私はこのことを報じた古い新聞記事を大切に持っていた。
 華宵に心酔するひと彼のみならず。私も幼き日より華宵描く凛々しい少年、気高い乙女にいかにあこがれたことか。それは今でも全く変わらない。これは初恋だ。弥生美術館にゆけば変わらぬ姿のままの初恋の人に会える。


おおた かずひこ
エッセイスト。好きな画家はマチス、タンギー、キリコ、高畠華宵、小村雪岱、鏑木清方、川瀬巴水など。

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