17.09.27 update 俳優 / 映画 / photomessage

2017年、第91回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、第42回報知男優賞他、数々の賞を受賞した菅田将暉『あゝ、荒野』公開直前インタビュー

PHOTO MESSAGE  ¿Como le va ? 2017年10月1日号より

「現場を振り返りながら映像を見ると、不思議ですが、フィクションなのに、スクリーンの中の自分が活き活きしていて、生きている証を感じ取れたのが嬉しかったです」
2017年8月12日 スタジオエビスにて
撮影:言美歩

 

 寺山修司さんが遺した同名の長編小説を基に映画化された『あゝ、荒野』、原作は1960年代の新宿が舞台ですが、今回の映画では、東日本大震災や、ドローン、介護施設など時代を写す現代的なエッセンスが入り混じる近未来の2021年の新宿を舞台に、生きること、誰かとの繋がりを模索し続ける男を演じました。

 監督の岸善幸さんとは、『二重生活』でご一緒しましたが、僕は岸さんが大好きなんです。岸さんとやるなら、肉体的表現が必要とされるものをやりたいと思っていました。岸さんの現場は、本番前の「テスト」はなく、毎回が一発勝負で全力疾走です。夏海光造(撮影監督)さんは、ドキュメンタリーの現場が多く、試写体とセッションしてくれるカメラマンです。夏海さんが体の動きなどを客観的にとらえ、僕ら役者が現場で衣装を着て相手役と向かい合っている状況でしか感じられないことを細かく見ていてくれます。その上、韓国映画『息もできない』で世界各国の映画賞を総なめにしたヤン・イクチュンさんも一緒です。断る理由など全くなく「やらせてください」と即決で出演を決めました。初めてのボクサー役で、肉体も心もさらけ出す作品です。撮影前、僕の体重は50数キロしかなく、ヤンさんは70数キロでしたので、2人が同じ階級(64、5キロ)になるために、僕は食べて体を大きくし、筋肉をつけていく体づくりに半年ほどかけました。

 その後松浦慎一郎(ボクシングトレーナー)さんの指導の下、練習を積み重ね、本物のボクサーに近づけていきました。最初40キロのバーベルをまともに持ち上げられなかったのが最終的には80キロまで、トレーニングを続けると如実に自分の進化が分かるのです。これは新しい発見でした。

 ご一緒したヤン・イクチュンさんは人の気持ちの捉え方や出し方が、少なくとも僕が今まで出会った日本人とは違って、すごくわかりやすかったです。嘘がなく、その上美しいのです。自由でテイクのたびに違うことが生まれてくるのが楽しかったです。

 今回ボクシングを初めて体験しましたが、ボクシングの3分間がこんなにもピュアな時間だとは思いませんでした。ずっと相手と目を合わせ、目を離せば隙が生まれる、集中力と精神力の闘いです。他には何も入ってくることができない、一つのことに集中できる時間は、強烈な気持ちの良さがありました。それにボクシングは、人柄が出ます。殴られることに無意識に体が固まって、前を見ることができない、殴る相手も見ることができないバリカン(ヤン・イクチュン)のフォームは性格を象徴しています。

 小さい頃に母親に捨てられ、仲間に裏切られ少年院にも入った男。かたや韓国で母親を亡くして父親に虐待を受け、日本に無理やり連れてこられ、その上吃音で人との会話がうまくできない男。その男達が繋がりを求めて最後ボクシングで殴り合う。二人を囲む登場人物も荒んだ環境に生きながら心に傷を負っている。そんな悲しすぎる話ではあるけれど、寺山修司さんという人の、世の中に対する愚痴のようなものが現代においてもどこか必要とされ、〝荒野〟というのは、時代とは関係なく、誰の心の中にもあるものだと思います。そして、今、この映画に参加できたことに感謝の気持ちでいっぱいです。

 

新着記事

  • 2026.03.23
    鈴木保奈美が惚れ込んだアガリスクの冨坂友と再度タッ...

    鈴木保奈美が幽霊になる〝お葬式コメディ〟

  • 2026.03.23
    第21回【帯津良一・90歳のときめき健康法】欲望な...

    文=帯津良一

  • 2026.03.22
    フランスでロングランヒット『ママと神さまとシルヴィ...

    応募〆切:4月27日(月)

  • 2026.03.19
    〈国立映画アーカイブ〉の最新技術が可能にした、知ら...

    秀作や埋もれたフィルムが蘇る「発掘された映画たち2026」

  • 2026.03.19
    第34回【私を映画に連れてって!】配信作品は映画で...

    文=河井真也

  • 2026.03.19
    【お出かけ情報】溜池山王~六本木一丁目のアークヒル...

    2026年3月19日、アークヒルズの桜が開花

  • 2026.03.19
    「そうだ京都に行こう」と聴く者を京都の旅へといざな...

    渚ゆうこ「京都慕情」

  • 2026.03.18
    芦ノ湖で「ワンちゃん専用のクルーズ」が特別運航!4...

    愛犬と一緒にクルーズ

  • 2026.03.18
    アメリカの国民的画家が再び三たびやって来る—「東京...

    応募〆切:4月23日(木)

  • 2026.03.17
    特集:植木等生誕100年企画 「お呼びでない?お呼...

    文=高田雅彦

映画は死なず

特集 special feature  »

今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松宗雄が語る誕生秘話〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松...

〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎ポートレートの美学

秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!