誰でも心の片隅に見せたくないものがあるが、人を愛したら心の扉をいつの間にか閉め忘れてしまう。そして、傷つき傷つけ、引き返すことのできない人生に気がつく。でも、振り返るのはよそう。ただ、夕焼けに涙すればいいのだ、と詠う。季節は何度でもめぐってくるのだから、その愛を拾い上げ、終わりのない物語を作ればいいと。ささやかなこの人生を、喜びとか悲しみとかの言葉で決めてほしくない、とやさしかった恋人たちにメッセージする。
この歌には、恋人たちにはささやかだけどもふたりだけの想い出があり、歌があり、風景があり、感動がある。それを表現する言葉もふたりだけのものだ。ほかの誰でもない、ふたりの人生だったのだから、と言っているような気がした。それは決して大上段に構えたメッセージではなく、優しくて繊細だからこそ、聴く者の心に響いてくる。
〝青春の蹉跌〟ではないが、この曲はぼくをいつもほろ苦い空気で包み込む。と同時に、人生の物語は自身で作ればいいのだ、人を好きになることはやはりすばらしいことだとも思わせてくれる。
大久保一久は2021年9月13日に71歳で鬼籍に入ったが、74歳の伊勢正三は、現在も現役として活動中である。
<風>は、ぼくに<かぐや姫>、<猫>の音楽も一緒に運んできてくれる。そして、いつもぼくの心をくすぐり続ける。
文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫
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