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美人薄命─昭和の歌姫・本田美奈子はデビュー曲の「殺意のバカンス」から抜きん出た歌唱力でアイドル歌手と一線を画していた


 「タラレバ」を言っても仕方がないけれど、もし、映画『鬼龍院花子の生涯』やテレビ「西遊記」など、圧倒的な美しさと圧巻の演技で輝いていた女優の夏目雅子が、今も映画やテレビで活躍していたら、どんな作品が誕生しただろう。同じように、もし歌手の本田美奈子が今も健在だったら、ミュージカル女優として円熟の歌唱でたくさんの作品に出ていたに違いない。そんなことを考えたのは、前回、杏里の「オリビアを聴きながら」に触れ、本曲を歌う本田美奈子をYouTubeでみたからだ。ピアニストの羽田健太郎の伴奏による本田の「オリビアを聴きながら」は、本家の尾崎亜美、杏里とはまた違った魅力があった。透明感のある優しい高音が、包み込むような心地よさがあり、細い体に黒のロングドレスを纏った姿が神々しかった。

 二人を襲ったのは、急性骨髄性白血病。夏目は27歳、本田は38歳でともに人気絶頂の最中に帰らぬ人となった。「白血病」という病名を初めて知ったのは、山口百恵、三浦友和がテレビで初共演したドラマ「赤い疑惑」(1975)だ。山口百恵演じる17歳の少女・幸子が不治の病「白血病」を患いながら、直面する「生と死」、愛することの喜びと哀しみを描いたドラマだが、同時に「白血病」は恐ろしいと脳裏に刻みこまれた。しかし医学の進歩で、骨髄、末梢血、臍帯血などの移植や抗がん剤治療を乗り越え、元気に活躍している人も少なくない。今回改めて本田の歌手としての矜持や人となりを知るにつけ、今更ではあるが早すぎる死を惜しんでいる。


 本田美奈子がデビューしたのは1985年(昭和60)。日本電信電話公社が民営化されてに日本電信電話株式会社(NTT)となり、男女雇用機会均等法が成立した年である。歌謡界では中山美穂、南野陽子、森口博子、斉藤由貴、芳本美代子、井森美幸、浅香唯、石野陽子、松本典子、おニャン子クラブら多くのアイドル歌手を輩出した。4月20日に東芝EMIから、「殺意のバカンス」でデビューした本田は、小柄で華奢、小さい顔にクリっとした目がチャームポイントで、他のアイドル歌手とは違う歌唱力のある新人というのが第一印象だった。「殺意のバカンス」は、作詞:売野雅勇、作曲:筒美京平、編曲:船山基紀である。売野は、中森明菜の「少女A」や「セカンド・ラブ」、チェッカーズの「涙のリクエスト」、「星屑のステージ」、「ジュリアに傷心」、河合奈保子の「エスカレーション」など、アイドル黄金期の代表的な作詞家である。少々過激なフレーズやタイトルが特徴といえる。デビュー曲の「殺意のバカンス」というタイトルも、サスペンスドラマを思わせ、大人びた悪女をイメージさせる歌詞は、キュートな本田とはミスマッチのような気もしたが、冒頭の「抱きしめて~」と歌いだすと、その声量と表現力に驚いた覚えがある。

 
 デビュー8ヶ月にして武道館コンサートを成功させ、多くの新人賞を受賞し、順風満帆に仕事が拡がっていった。たくさんの芸能誌からのインタビューも殺到していた。当時は、アイドルはアイドルらしく、笑っていなければいけない時代、本田にはどこか突っ張った感じがあった。「アイドルは、キライ」、そんな言葉が記事になると、生意気だとか、気が強い、わがままだと言われたようだ。

 独自の表現ができるアーティストをめざした本田は、マリリン・モンローやマドンナら海外のスターのビデオを見ては新たな方向を探っていた。その中でデビューの翌年、シングル5曲目の「1986年のマリリン」(作詞:秋元康、作曲:筒美京平、編曲:新川博)は新たな挑戦だった。超ミニスカート、おへそを出したコスチューム、大胆に腰を動かす振り付けは、自身がスタッフに提案したものだった。アイドル路線からセクシー路線への変化はインパクトが強く大ヒット。1996年3月6日の「ザ・ベストテン」では、中森明菜の「DESIRE」に次いで2位にランキングしている。9枚目のシングル「Oneway Generation」は、田村正和主演のドラマ「パパはニュースキャスター」の主題歌としてヒット、本曲も最高位2位。チャップリンを思わせる丸い帽子とステッキがトレードマークで、女性ダンサーとステップを踏んで歌っていたことを思い出す。

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