そのあとがなんとも可笑しいのだが、撮影後、謝りに行った砂田さんに植木さんが発したのは、あの決めゼリフ「お呼びじゃなかった?」だったというのだ。
このとき植木さんは「イタズラをしたあとの子供のような表情をして、肩をすくめてみせた」そうだが、古くからの友人でプロデューサーでもある砂田さんには、「余計なことをして申し訳なかった」と伝えたかったのだろう。
「植木さんほどの人格者はいません」
植木等をこう評する砂田さんは、筆者にこうも語った。
「植木さんの〝本当の意味での友だち〟っていうのは僕だったと思うんです。植木さんとの付き合いは感動的なことばかりでした」
砂田さんの言葉からは、植木等の高潔な人間性が浮かび上がってくるかのようだ。
植木等の「許せないことにはきちんと立ち向かう姿勢」は、次の逸話からも窺い知れる。
時は2005年3月、母校・東洋大学の卒業式に来賓として登壇した植木等。学生たちの喋り声が響き、緩いムードが漂う式場を見るや、淡々とした口調でこう語りかけたという。
「君たち、さっきから落ち着きがないけど、少し静かにしなさい。これからは社会人として、責任を持った態度を取らねばならないのだから――」
報告してくれたのは、その場に居合わせた同大卒業生のI君。彼もクレージー映画の大ファンの一人だ。
「無責任男の気楽なノリとは正反対。淡々と説教する植木さんには、確かな圧がありました」とI君が感じたのも、コワくて真面目な常識人・植木等の真骨頂。「無責任男から責任というワードが発せられた」貴重な現場に居合わせたI君は、誠に幸せ者である。
これは、東宝のスタッフや俳優ОBによる懇親会「砧同友会」の監事を務めていた小谷承靖監督が、植木さんに開会の挨拶を依頼したときのこと。
登場時に「スーダラ節」を歌っていただきたいと要求した監督に対し、植木さんはこう応える。
「僕はこういう場で、この歌は歌いたくない」
『すっかり…その気で!』(81)などで親交のあった小谷監督直々の頼みにもかかわらず、これをピシャリと拒否したのは、植木等がいかに「スーダラ節」を大事にしていたかの証し。監督には気の毒なことだったが、この逸話からは植木さんのこの歌への強い思いが伝わってくる(※2)。