なにせ世界的オペラ歌手・平山美智子から本格的に歌の指導を受けた植木さんであるから、譜面さえあれば、すぐさま歌いこなせるスキルを持っていた(※4)。「だまって俺について来い」のプレスコ(映画の中でうたう歌をあらかじめ録音しておくこと)も初見で歌い、二度テストしただけでОKが出たという。
『ホラ吹き太閤記』(64)の舞台挨拶で、この「だまって俺に―」を歌うことになったときのこと。前述のとおり三回しか歌っておらず、歌詞が頭に入っていない植木さんに、小松政夫さんがプロンプを持って見せようとしたところ、満員の観客の頭でこれが隠れてしまう事態に――。
すると植木さんは、「見~ろよ青い空、白い雲」以降の歌詞をこう歌う。
「♪コマツ、見えな~いよ、見えません~。そのうちなんとか、な~るだろ~う」
何と機転の利いた対応であろうか。この愉快な逸話を小松さんは自著でも触れておらず、ここでご披露させていただいた次第だ。
その『女の世界』をお返しに上がった日のこと。
自分もバンドマンとして活動している筆者は、意を決して植木さんにこう問うてみた。
「植木さん、『スーダラ節』を上手く歌いこなす秘訣を教えていただきたいのですが……」
この歌を一度でもカラオケで歌ったことがある方はお分かりだと思うが、甘くささやくように歌う「クルーナー唱法」(※5)を得意とする植木さんだけあって、これは凡人にはなかなか上手く歌いこなせない難曲なのだ。
すると、植木さんから返ってきたのは、この一言。
「高田君、E♭で歌いなさい」
まさに「目から鱗」。この助言どおり、キーを元のCから二度半上げてE♭で歌ってみたところ、(歌の上手い下手はともかく)実に気持ちよく歌うことができたのだ。
以来、筆者はこの教えを守り、「スーダラ節」をE♭で歌い続けている(※6)。
1990年、「スーダラ伝説」での再ブレイクにより、23年ぶりの「紅白歌合戦」出場を果たした植木さん。これがトーク番組「植木等デラックス」(91/TBS)や、ライブ・ツアー「植木等ザ・コンサート」に結実、ツアー最終日となるNHKホールのステージに、クレージーキャッツが勢揃いしたときは感涙にむせんだものだ(※7)。